【ステージ10】最短距離なんて存在しない
人が人にお金を払うのは理屈ではなく感情だ。
私も本当にその通りだと思う。
理屈でいろんな正論を振りかざす人に、我々はお金を投資したくない。その一方で、論理はめちゃくちゃだが、なぜか投資したくなる人間がいることも確かだ。
その違いはなんだろうか?
私が思うに、それは過去に良好なコミュニケーションがあったかどうかだと考えている。
だから、やるべきことは積極的に外部とコミュニケーションを取ることだ。どんな形でも良い。泥臭くても地道に行こう。
コミュニケーションをとる上で最も効果的なのは対面での単純接触回数を増やすことだ。
文章で表現することが得意なのであれば、メッセージやメルマガのようなもの、SNSでの定期的な配信も良いかもしれない。
ただ、一つだけ忘れないでほしい。
そこに最短距離なんてものは存在しない。
SNSで繋がるのも良し。今すぐ一人で飲みに行って飲み屋で知り合った人と仲良くなるのも良し。まずは直接関わっている人たちをファンにしてみよう。
コミュニケーションの鉄則は、相手を気持ちよくさせること。その後で初めて自分の言いたいことを伝える。
人は自分の話をしたい生き物だと言われる。
だから本能的に話を聞き続けてくれる人には心を開きやすい。
だから、まずは徹底的に聞き役に徹する。
間違っても無言でいてはいけない。
聞き出すのだ。相手が話したがっている話題を聞き出して話をさせる。
方法はシンプルだ。
SNSをやっている人であれば、SNSでその人が挙げた投稿内容を分析し、その投稿内容に関する質問をすればよい。
SNSで投稿している時点で、承認欲求を満たしたいことはほぼ間違いがない。だからその話題に触れることで相手の承認欲求を満たしていく。
仮にSNSをやっていない方であれば、好きな食べ物や好きな音楽など、好きなものを聞いていこう。そこから共通点を見つけつつ、相手の話を引き出していく。
相手が話したいことを話し終えるまであなたは聞き役に徹すればよい。どんな話でも「自分にどう生かせるだろう?/自分だったらどう考えるだろう?」という視点で聞けば、真剣に聞くことができる。
こうして信頼を積み重ねた後であれば、相手はあなたの話を聞いてくれるだろう。
そして初めて、信念を持ってバンドをやっていて、成功してこんなことをやりたいと思っていると伝えるんだ。目を見て直接。そしてそれを応援してほしいと伝えろ。本気で伝えるんだ。
信頼が積み重なっていれば、少なくとも一回はライブを観てくれる。そこであなたの音楽の価値を理解してもらうんだ。
来てもらうからには、必ず来て良かったと思わせるような体験を提供しなければならない。
これは難しく考える必要はなく、相手が求めているものを提供できれば十分に達成可能だ。すでに、あなたの熱意や信念は相手に伝わっていて信頼関係もあるのだから。
つまりやるべきことはシンプルで、熱意や信念が音楽や演奏を通して相手に伝わりさえすれば良い。友だちの延長線上ではなく、音楽そのものに価値を感じてもらうのだ。
そのための方法はこれまでお伝えしてきた通りだ。もし具体的なイメージができていない場合は、もう一度本書を最初から読み直してほしい。
きちんと熱意や信念がステージ上から伝われば、人の感情が動く。人の感情が動いたものは、古来より最強の販促方法である「口コミ」となって広がっていく。
だから絶対にやってはいけないのは、ヘラヘラしながらライブをやったり、MCで何を喋るか決めていないなど、本気度が伝わらない行為だ。
ステージに上がったその瞬間からステージを降りる瞬間まで、しっかりとブランディングに沿って作り上げられたものでなければならない。
何回でも言うが、最短距離なんてものは存在しないのだ。こういった一つ一つをしっかり丁寧にやっていくことが、バンドを唯一無二の存在へと作り上げていくたった一つの方法だ。
昔ホストをやっていた先輩がこう言っていた。
「ホストをやるからモテる訳ではない。元々モテてモテてしょうがないから、仕事としてホストをやっている。」
いま聞いてもすごい話ではあるが、音楽業界にも少なからず似たようなタイプのアーティストは存在する。
「音楽が好きで、がむしゃらに音楽ばかりやっていたら、いつの間にかファンが増えていき、結果的にそれが仕事になっていた」というタイプの人たちだ。
これを無意識でやれている人たちは、確かに一定数存在する。ただし、努力を重ねて成功を収めたアーティストが多いことも事実だ。
あなたはどちらのタイプだろうか?
無意識でファンを獲得できるのであればこの本は必要ないかもしれない。ただ、どちらのタイプでも努力を重ねていくことで、より成功の可能性を高められると、私は思う。
この章の最後に、プロフェッショナルの裏方について簡単に話したいと思う。
プロのアーティストのステージは、数々のプロフェッショナルによって作り上げられている。
音響のプロ、照明のプロ、制作のプロなどあらゆるプロフェッショナルが一つのステージを作り上げていく。
そのプロフェッショナルが積み上げた土台の最頂点に立つのがアーティストだ。視聴者である我々にはそのアーティストの姿しか見えないが、裏ではたくさんのプロフェッショナルが動いている。
彼らはアーティストが来る何時間も前から入念にステージや舞台、動線、機材などをセッティングする。何人かで持ち運びするような重い機材もあれば、取り扱いを慎重にしなければならない精密機械も存在する。
プロである以上、ミスは許されない。
万が一トラブルが起きたときのために、バックアップを用意し、本番の進行に影響を及ぼさないように念入りに準備する。
いざアーティストが来たらリハーサルの準備だ。皆の共通目的は、いかにして最高の音/最高のパフォーマンスをお客様に届けるか。
アーティストだけではない。裏方にいる様々なプロフェッショナルが、自らの領域で常にベストなパフォーマンスを追い求めている。
リハーサルが終わっても最終チェックまで欠かさない。本番中も舞台袖で全神経を集中させてアーティストを見守っている。
これが私の知っている裏方の人たちだ。彼ら彼女らのおかげでステージは完成されたものになる。
このように作り上げられた本番において、アーティストが派手なミスをすることはほぼ無いに等しい。それは、アーティストがプロフェッショナルだからということだけではない。間にプロフェッショナルがたくさんいるからだ。
だから、アーティストは安心して常に演奏とパフォーマンスだけに集中することができ、そこには裏方との確固たる信頼関係が存在する。
よくアーティストがMCでこう言うのを聞いたことがないだろうか?
「このライブは俺たちだけじゃ成し遂げられなかった。本当にありがとう。」
私は、これは嘘偽りなく本心だと思う。それくらい一つのステージには様々な人の手が掛かり、想いが掛かり、それをアーティストがすべて背負ってお客様に届けている。
アーティストは偉大だ。
人によっては何万人という観客を満足させる力を持っている。私も敬意を持って心からそう思う。
それと同じくらい、私は裏方に徹している影の立役者たちを心から尊敬している。
大きな規模のバンドになればなるほど、関わってくるプロフェッショナルの数がどんどん増えていく。
そうしたプロフェッショナルの方々を含めた「最高のライブを届けたい」という想いが観客に届いているからこそ、多くの感動が生まれるのだ。
少なくとも、私はそう思っている。
プロのステージがこれだけ手間暇掛けて作り上げられているのだ。だから改めて言おう。
最短距離なんて存在しない。
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